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2010/12/18

阿見町ブリーダー告発事件

by:おかめ

茨城県阿見町のブリーダー告発事件について

                                                                          2010年12月18日

                                    弁護士 坂本博之(山猫)
(動物愛護を考える茨城県民ネットワーク(
NPO法人申請中)理事)

 

1 事案の概要

茨城県稲敷郡阿見町は、土浦市やつくば市と隣接する、茨城県南部の郊外の町である。この町に、劣悪な環境の下で犬や猫の飼育・繁殖を行っている夫婦がいた。このブリーダーのことは、平成21年8月ころから、動物ボランティアたちの間でよく知られるところとなっていた。

彼らは、狭い金属製のケージ(檻)を2段重ねにして、犬やねこを入れていた。ケージの床は金柵のままにして、板やタオルなどを敷くことはなかった。トイレをケージの中に入れることはなく、金柵の下にトレイを置き、糞尿は檻の中でそのままさせて、トレイに落とすようにしていた。しかし、彼らは、糞尿の処理を適切に行わず、長期間トレイの中に排泄した糞尿を置いたままにしておくことが間々あり、蛆虫がわいていることもあった。また、彼らは、飼育施設を定期的に清掃することは殆どなく、ケージは埃や抜け毛などにまみれているような状態であった。

それから、彼らは、飼養している犬やねこに対して、適切な給餌や給水をすることを怠っており、何日も餌箱や給水器が空になっていることはしばしばであった。餌箱の中に餌と糞が一緒に入っていてもそのまま放置してあることもあった。彼らが犬やねこをケージから出すことは殆どなく、犬を散歩に連れて行くことも殆どなかったし、犬を洗ってあげたりブラッシングをしたりすることも殆どなかった。このように、彼らは、犬やねこを清潔な環境で飼育していなかったため、皮膚病や疥癬症に罹患するものも多かったが、獣医の治療を受けさせることは殆どなかった。犬の手入れをすることもなかったから、爪などは伸び放題となっていた。そのため、後ろ足で体を引っ掻くと皮膚を傷つけることになったが、そのようになっても彼らは治療することなく放置していた。さらに彼らは、頻繁に繁殖をさせたため、種雌の身体に多大な負担がかかることとなり、顎が溶けてしまったり、歯が抜けてしまったりしたものもいた。平成21年9月には、衰弱して死亡した後、数日間放置された子猫の死体もあった。

そして、このような飼育状態にあることを知った茨城県は、何度も立ち入り調査を行ったが、平成21年10月に至っても、余り改善は見られなかったのである。

2 刑事告発

茨城県内の人ばかりではなく、上記のような事実を知った全国の人たち219人が告発人となり、平成21年11月18日、所轄の牛久警察署に対し、上記ブリーダー夫婦とその息子1人の合計3名について、動物愛護法44条1項、2項違反(動物虐待)、及び狂犬病予防法違反27条1号、2号違反ということで告発を行った。

警察署に告訴状や告発状を持っていっても、簡単には受理されず、「とりあえずコピーだけ預からせていただき、受理するかどうかは検討させていただきます」ということになることが通常の扱いである。しかし、この件については、警察署も前々から察知していたことだったのかもしれないが、告発当日に受理された。

3 捜査の進展

警察では、虐待を受けた個々の動物について特定をする必要がある、虐待についての裏付証拠を取る必要があるということから、平成22年2月2日、裁判所の礼状を得て、検証を行ったということである。またその際に、警察は、動物たちの傷病の状態を具体的に特定するため、獣医を同行し、1頭ずつ詳しく調査したということである。

その検証の際に、犬64頭、猫10数匹が飼養されていること、犬については、64頭のすべてについて皮膚炎、結膜炎、外耳炎という疾患に罹患していることが確認されたということである。その一方、猫については、特に皮膚病等を患っていたものはいなかったということであった。また、その時の飼養状況は、やはり清掃や糞尿の始末等は十分に行われてはいない状態であったということであった。

本件は、犬を劣悪な飼養状況下に置いて疾病に罹患させ、放置したということが動物愛護法44条2項所定の「虐待」に該当するかどうかということが問題となったということであり、警察は、茨城県の担当部署のみならず、環境省にも見解を求めたということであった。その結果、環境省もまた、上記のような行為が「虐待」に該当するという見解を示したとのことであった。

以上のような捜査や法解釈上の問題点の克服の後、警察署は、平成22年9月1日、本件事件を、水戸地方検察庁土浦支部に書類送検した。

4 検察庁の処分

そして、水戸地方検察庁土浦支部は、平成22年12月17日、本件についての処分を決めた。結論は、ブリーダーの夫の方について、動物愛護法違反(44条2項)及び狂犬病予防法違反で略式起訴、ブリーダーの妻の方について、動物愛護法違反(44条2項)で略式起訴、息子については証拠不十分のため不起訴、ということであった。

動物愛護法違反による起訴は、検証の際に確認された64頭の犬それぞれについて、虐待の事実を明記してなされたものであるということであった。

狂犬病予防法違反による起訴が夫の方だけになったのは、同法上の義務は所有者に課せられたものであるところ、犬の所有者が夫の方だからということであった。

なお、上記のとおり、起訴された事実は、告発後に行われた検証を基礎としているので、告発状に記載された事実との間でズレがある。告発人らに対して、本件告発の動機付けとなった、悲惨な状態に陥った個々の犬や猫については、起訴を裏付けるだけの証拠が不足していたということである。

5 本件事件の意義と問題点

本件は、著しく劣悪な環境の下で、動物の建工に対する配慮を欠いたまま、動物を飼養し、繁殖させていたブリーダーに対して、厳しい処分をしたことに大きな意義がある。多かれ少なかれ、現在のわが国のブリーダーは、動物の福祉に対する配慮を怠った劣悪な状況下で動物の飼養を行っているものと思われる。そのような状況を改善するための一歩となって欲しいと願いたい。

一方、本件は、本来監督権限を適切に行使することが期待されている県が、何度も立ち入り調査を行ったにも拘らず、殆ど改善がなされなかったということも浮き彫りにした事例であるといえる。茨城県に対しては、本件について十分な事後検証を行い、今後の反省材料としていただきたい。また、都道府県にその監督権限を十分に行使させるための手段については、国も真摯に考えなければならないところである。

現在、国では、動物愛護法の改正問題が俎上に上っているが、本件のような悪質なブリーダーを排除していくためには、動物取扱業を現在のような届出制ではなく、許可制にすることも真剣に考える必要があると思われる。

なお、虐待を受けた動物を救出するための確実な法的手段が何もないということも考えなければならない事項である。現在の法体制の下では動物たちは所有権の対象となっているから、ボランティア団体等が動物を救出したいと思っても、ブリーダーが拒否すれば行き詰まる。現在は、行政手続も刑事手続も動物の救出をするためには十分ではない。児童虐待の場合の児童相談所による一時保護(児童福祉法33条)、家庭裁判所の審判による施設への保護(同法28条)等の法制度の整備が、動物福祉の分野でも望まれる。

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